「断面修復工」は設計変更の宝庫だ。劣化の面的な広がりと矩形面積の係数、深さの設定の落とし穴・塩害による工法変更を勝ち取る実戦ロジック|実務支援ser.#10

前回は、設計変更を確実に通すための「手順(プロトコル)」と「打合せ簿(完パケ)」について解説しました。 今回は、それを実際の現場でどう使うか? 最も設計変更が発生しやすい「橋梁補修工事(断面修復工)」を例に、具体的な「カネと評価の稼ぎ方」を解説します。

もしあなたが断面修復工の経験が浅く、「当初設計の数量通りに直せばいい」「また変更かな・・・?」と受動的に思っているなら、その仕事は「再劣化(瑕疵)」と「大赤字」を引き起こすことになるでしょう。

1. 前提:当初設計図書はいわば「妄想」

言葉は悪いですが、補修工事における当初設計は「仮定の産物」です。 多くの設計書は、足場を組む前の「数年前の点検データ」であり、箇所によっては遠くから見た「遠望目視」を元に積算されています。

現地調査でしっかりとした足場のもと、入念にテストハンマーで全数叩いてみる。当然に「設計数量と現場が一致することなど、あり得ない」わけです。

ここで「合わない!」「またか・・・」と嘆くのではなく、プロの代理人はこう考えます。

  • 「どの程度増工が見込めるか?」
  • 「3割アッパー(契約額の30%増)を超える場合、どの範囲までを実施工とするか?」

これを早期の段階で予測し、迅速な変更準備(攻め)に移行するのです。

2. 面的広がりのマジック(アメーバ vs 矩形)

劣化範囲(面積)の決定には、大きな罠があります。

●当初設計の罠①:塩害の不可視性 詳細点検は5年に一度しか行われません。その間も、飛来塩分や融雪剤の影響で、見た目(ひび割れ)以上に内部の塩害が進行しているのは当然のことです。そのエビデンスを得るために、塩分含有量調査が必須となります。

●当初設計の罠②:アメーバ換算 設計数量は、ひび割れや浮きの「アメーバ状の範囲」を単純合計しているケースが多いです。 しかし、コンクリート内部の塩分を除去し、再劣化を防ぐことが目的であれば、アメーバ状の形状を整形し、「矩形(四角形)」として一括施工するのが技術的な正解です。 当然、実施工面積(矩形)は設計面積(アメーバ)よりも増えます。ここの係数をしっかり変更に盛り込むことが重要です。

アメーバ状に劣化が現れた塩害による断面修復の一括的な施工を女性技術者と模式図で示した1枚

3. 深さ方向の処置:「はつり深さ」の設定

次に、最も金額乖離が起きやすい「深さ」です。

●当初設計の罠 多くの積算では**「平均はつり深さ 30mm(鉄筋かぶり程度)」**などで一括計上されています。これを鵜呑みにしてはいけません。

【STEP 1:机上での変更要素抽出】 まず、発注者から当該構造物の「完成図」の提供を受け、設計上のかぶり厚と配筋図をチェックします。

  • 通常、30〜50mmは「第1鉄筋」の位置です。
  • しかし、塩害は「第2鉄筋」まで進んでいると考えるのが妥当です。
  • また、粗骨材の最大寸法(20mm等)を考慮すれば、薄皮一枚を残してハツることは物理的に不可能です。

【STEP 2:実践アクション】

  1. 赤チェック: 完成図と設計図(標準図)を比較し、その差(設計かぶり、第2鉄筋位置、想定されるハツリ深さ)を赤字で表記します。
  2. 確認請求(テストハツリ): 机上の推論を証明するため、現場立会いを行います。この際、代表箇所の「試験ハツリ」を実施するのが最も効果的です。「ほら、30mmじゃ鉄筋裏まで取れませんよね?」と実物を見せるのです。
  3. 変更協議: すべてのデータを簡潔にまとめます。 この資料を用いて、変更検討会等の場で係長級・課長級に論理的に説明できれば、あなたの技術力の証明になり、工事成績評定アップの強力な素地となります。
塩害による断面修復工の施工深さの設定を女性技術者が試験斫りによる現地説明を行っていることで表した1枚

4. 「水」と「塩」を見逃すな(抜本的変更)

単なる数量変更だけでなく、工法そのものを見直す「提案」のチャンスです。

●ケースA:水が出ている(漏水) 表面からの供給か、内部からの漏水かを見極めます。

  • 伸縮装置からの漏水: 設計思想として「伸縮装置補修工」の先行実施を提案。
  • 外桁からの吹き込み: 水切り工や「表面保護工」の施工箇所の追加を提案。
  • 内部からの漏水: 有孔パイプやアンカー等の増工を提案。
  • 施工不能箇所: パラペットや桁端部など、物理的に手が入らない箇所が設計に含まれている場合、着手初期に協議します。(本来は応札時の質問事項ですが、発注者との関係性によっては戦略的にタイミングを計るのも一手です)
  • ※水対策は、複数案検討による比較表を作成し提案しましょう。

●ケースB:塩分が高い(塩害) 着手時の詳細調査(塩分量分析)で高濃度の塩分が検出された場合、単なる断面修復では防げません。

  • ハツリ深さの変更とともに、「亜硝酸リチウムの添加(内部圧入や混入)」の増工を提案する必要があります。
  • 金額が著しく跳ね上がり、増工金額が「3割オーバー」となることも想定して提案します。

ここで日和って当初設計通りに施工し、数年で再劣化した場合、大赤字になるだけでなく「施工不良(瑕疵)」のレッテルを貼られるのはあなたです。 逆に、勇気を持って提案し、インフラの長寿命化を達成すれば、最終的に発注者(管理者)からの絶大な信頼を勝ち取ることになります。

断面修復工の変更検討及び決裁を得た様子を2人の建設技術者が握手、それを見守る50代ベテラン技術者で表現した

まとめ:変更こそが「品質確保」である

面倒くさがったり、知識不足であったり、あるいは監督員への遠慮から、本質的な施工から逃げてはいけません。 それは「会社の利益」を捨てるだけでなく、再劣化による「税金の無駄遣い」を招き、インフラの短命化に加担することになります。

「現場の真実」を暴き、適切な工法に導くこと。 これこそが現場代理人の最大の職務であり、その結果として「利益(変更増額)」「名誉(高評価)」がついてくるのです。


(CTAエリア) 変更実務には、完成図の入手方法、施工計画への記載、塩分分析結果に基づく提案ロジックなど、現場ごとの判断が必要です。 迷った際は、当事務所にご相談ください。 → [お問い合わせ・ご相談はこちら]→ [技術サービスはこちら]


🔗 参考資料・ガイドライン

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