【安全管理の深層】「保護具」は最後の手段。役所の内部事情から逆算する、プロのリスクアセスメント|工事成績評定ser.#15

工事成績評定シリーズ、第15回は前回の「安全管理」の深掘り編です。

前回(前回記事はこちら)、工事成績評定の安全管理は「記録」と「創意工夫」で評価を得るというお話をしました。今回は、さらに視座を上げ、経営層や一流の現場代理人が必ず持っている「OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)」の思考法について解説します。

「労働安全衛生マネジメントシステム」(OSHMS)は厚労省さんのHPがわかりやすいです[こちら

多くの現場代理人が、リスクアセスメントを「書類上の儀式」と勘違いしています。この本質を理解すれば、あなたの現場の安全性は飛躍的に高まります。

1. リスクアセスメントの4分類:「低減」ばかり見ていないか?

現場に潜む危険(リスク)を洗い出した後、どう対応するか。 多くの代理人は、「②低減」に注目しがちですが、リスクへの対応(リスクコントロール)には実は4つの選択肢があります。

・回避(Avoidance): リスクそのものを無くす。(例:高所作業をやめ、地上で地組みしてからクレーンで吊る工法へ変更する) ・低減(Reduction): リスクの発生確率や被害を小さくする。(例:手すりを設置する、立入禁止区域を設ける) ・移転(Transfer): リスクを第三者に移す。(例:保険に入る、特殊作業を専門業者に委託する) ・受容(Acceptance): リスクが残ることを認識した上で、監視しながら作業を行う。

「とにかく気をつけろ(低減)」だけが安全管理ではありません。 プロの代理人は、施工計画の段階で「このリスクは『回避』できないか?」を徹底的に探ります。(これが設計変更の提案に繋がることもあります)。 逆に昭和時代の言葉である「赤チン災害」、例えば構造や機能に影響のないモノのかすり傷程度のリスクは、あえて受け入れるというものです。

2. リスク「低減」の優先順位:保護具は『最後の手段』

どうしてもリスクを「低減」しなければならない場合、そこには明確な「優先順位」が存在します。ここを間違えている現場が非常に多いのです。

第1順位:本質的対策(危険な機械・物質を、安全なものに代替する) 第2順位:工学的対策(カバーやインターロックなど、物理的に隔離する) 第3順位:管理的対策(マニュアル化、立入禁止標識、KY活動、声掛け) 第4順位:個人的保護具(安全帯、防塵マスク、保護メガネなど)

低レベルな現場管理では、すぐに第3・第4順位に頼ります。 「危ないから安全帯をヨシ!」「看板を立てて注意喚起ヨシ!」 これは、労働者に責任を丸投げしているだけであり、根本的な解決ではありません。

高得点(a評価)を得る代理人は、第1・第2順位(本質・工学)に知恵を絞ります。 「ヒトはミスをする」ことを前提として、怪我をしない物理的な仕組み(工学的対策)を構築し、それを施工計画書や提案、実施状況として報告するのです。

リスク低減措置4種(本質・工学・管理・保護具)をイラストとして表現、テキストを視覚的にわかりやすくした

3. 【禁断の裏話】現場で事故が起きると、役所内部はどうなるか?

最後に、少し生々しいお話をします。 なぜ、我々受注者はここまで血眼になって安全を守らなければならないのか。それは、作業員の命を守るためであると同時に、「発注者(監督員)を守るため」でもあります。

もし、あなたの現場で休業災害や、さらに重大な事故が起きたとします。 現場がストップし、労基署や警察の対応に追われるのは当然ですが……その裏で、発注者の内部(役所)では何が起きているかご想像がつくでしょうか?

・監督員は、日常業務をすべてストップし、上部組織からの報告、問い合わせ、首長(市長や知事)や議会へ向けた「事故報告書」の作成に忙殺されます。 ・「なぜ防げなかったのか」「監督体制に不備はなかったか」と、上部組織やマスコミから厳しく責任を追及されます。 ・最悪の場合、監督員自身のキャリアや人事評価にまで致命的な傷がつくこともあります。

つまり、現場での事故は、あなたと苦楽を共にしてきた監督員を「地獄の淵」に突き落とす行為なのです。

「安全管理」とは、単なるルール遵守ではありません。 共にインフラを造り上げるパートナー(発注者)を、巨大な組織的リスクから守り抜くための「究極の防衛策」なのです。

リスクコントロール手法(回避・低減め移転・需要)と事故発生時の発注者内部での様子をイラストとして表現し視覚的に理解を促す1枚

まとめ

・リスクは「回避・移転・受容」も視野に入れてコントロールする。 ・対策は「声掛け・保護具」に逃げず、「本質・工学」を優先する。 ・安全を守ることは、発注者の担当者を守ることに直結する。

これが、OSHMSの理念に基づく「プロの安全管理」です。

【追記】事故発生時の報告と「軽微な事故」の現実

ちなみに、事故発生の際の報告について。 まず何よりも「一報」、これがないと実にまずいこととなります。外部からの通報で発注者が事実を知るようなことがあれば致命的です。 そして報告は正確に、事実のみを伝えます。 (現状・マスコミの有無・二次災害の危険性・原因・再発防止策・事業への影響など)

では、軽微な事故の際はどうなるか? これこそが、普段の安全管理や役所との協力体制、あなたの姿勢が問われる場面です。詳しくは当ブログでは触れませんが、ベテランであれば覚えがあるでしょう。 そう、実社会は利害が複雑に絡み合う実践の場なのです。単純に「はい、事故だから・・・」とはならないのです。その逆もしかりです。ここには人の「感情」が深く絡んできます。

このあたりの詳細や、発注者との関係構築を含めたより高度なリスクマネジメントについては、当事務所がご提供する技術サービスにて個別に対応しております。[当事務所が提供する技術サービスはこちら


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