綺麗な図面は「見ていない」証拠? 設計図書照査「赤黄(あかき)チェック」で手戻りを防ぎ、変更増額を勝ち取る技術|「工事成績評定の本質」実務支援ser.#8

前回記事では、監督員攻略法についてお伝えしました。 今回は、その交渉の「最大の武器」となる**「設計図書照査」**の実務技術です。

いきなりですが、質問です。 あなたの現場事務所にある「契約図面」は、今どんな状態ですか?

まだ真っ白で、新品同様でしょうか? それとも、ボロボロに使い込まれ、書き込みだらけでしょうか?

そしてもう一つ。 あなたは「赤黄(あかき)チェック」を知っていますか? それを「ガチ」で、全ページやり切ったことがありますか?

「名前くらいは聞いたことがある」「若手の頃にやらされた」 そんな声が聞こえてきそうですが、現場代理人として本気でこれを実践している人は、実は驚くほど少ないのが現状です。

今回は、精神論ではありません。 **「綺麗な図面は仕事をしていない証拠」と断言する理由と、赤黄チェックがもたらす「工事成績評定の加点」および「設計変更(利益)の獲得」**という、極めて実利的なメリットについて解説します。

1. 設計図書照査は「間違い探し」ではない

まず、マインドセットを変えましょう。 設計図書照査を「単なる図面の間違い探し」だと思っていませんか?

それはまったく違います。これは**「あなたの利益を守る、最初の防衛戦」**です。

公共工事標準請負契約約款第18条(条件変更等)において、「設計図書と現場の状態が一致しない場合」は通知義務があり、それに基づいて設計変更がなされると規定されています。 逆に言えば、「着手前に気づけたはずの不整合」を見落として施工し、後でトラブルになっても、それは「受注者の照査不足(=コスト持ち出し)」と見なされるリスクがあるのです。

特に、国交省のガイドラインでも「着手前の照査」は重要視されています。 照査をせずに着工するのは、目隠しで運転するようなもの。事故(手戻り)が起きてからでは遅いのです。

【参考リンク】

2. 工事成績評定における「位置づけ」

この「照査」という行為は、工事成績評定において明確な評価ポイントとなります。

① 考査項目「施工管理(工程・品質)」

  • b評価(標準): 図面を見て、なんとなく監督員に質問した。
  • a評価(優): **「早期に」照査を行い、問題点を「視覚的な根拠資料(対比表やチェック図面)」**を用いて提示し、手戻りを未然に防いだ。

② 考査項目「創意工夫」

単なるミス指摘に留まらず、現場条件に合わせた「代替案」や「品質向上策」を提案すれば、それは立派な創意工夫です。

口頭で「チェックしました」と言うのは簡単ですが、検査官には伝わりません。 **「ここまでやりました」という動かぬ証拠(エビデンス)**を残す技術、それが次項の「赤黄チェック」です。

【参考リンク】

3. 最強のアナログ技術「赤黄チェック」の手順

デジタル全盛の今だからこそ、このアナログな手法が最強の説得力を持ちます。 やり方はシンプルですが、奥が深いです。

手順(Protocol)

用意するのは、黄色い蛍光ペンと、赤いボールペン(またはサインペン)。

  1. 黄色(Yellow)=「整合確認(OK)」 図面と数量計算書、仕様書を突き合わせます。数値や形状が合っていれば、その箇所を黄色い蛍光ペンで塗りつぶします。 「目で見た」ではなく「塗った」という物理的なアクションが重要です。
  2. 赤色(Red)=「不整合・疑義(NG)」 数値の食い違い、現場との不一致、不明点があれば、赤ペンで書き込みます。これが「警告色」となります。
  3. 青/緑 =「解決済み」 監督員への質疑を経て解決した箇所は、上から青や緑でチェックを入れます。
設計照査の証としての赤黃チェックの価値を、女性技術者の作業風景で表現した

この手法の4つのメリット

  1. 自分自身のために: 中断しても「どこまで見たか」が一目瞭然。ヒューマンエラー(見落とし)が物理的に防げます。
  2. 対監督員への無言の圧力: 打ち合わせの際、机の上に**「真っ黄色に塗られ、赤字が入った図面」を置いてみてください。何も言わなくても、「この代理人は、ここまで図面を読み込んでいるのか……」**と相手を圧倒できます。適当なごまかしが効かない相手だと認識させる、最強の名刺代わりになります。
  3. 評定対策: 「施工管理(品質管理)」でa評価を取るための、最も分かりやすい「具体的根拠資料」になります。
  4. 【重要】社内検査・品質保証の質向上: 社内検査員や品質保証担当者が巡回に来た際、真っ白な図面では「どこを重点的に見るべきか」が伝わりません。 赤黄チェックがあれば、検査員は**「赤字(不整合・変更箇所)」**を重点的に確認できます。これにより、形式的な検査ではなく、実質的なダブルチェック(品質保証)が機能し、組織としての「施工体制」の評価も高まります。

4. 【実例】断面修復工で見る「攻め」の照査ポイント

では、具体的にどう「金(変更増額)」に繋げるか。 ここでは、設計と現地の不整合が起きやすい**「橋梁補修(断面修復工)」**を例に挙げます。

そもそも、当初設計図書(数量総括表)は、数年前の点検記録や遠望目視(遠くから見ただけ)で作られていることが大半です。 **「足場を組んで叩けば、数量が増えるのは当たり前」**なのです。

ここで赤黄チェックを行い、以下のポイントを監督員に提示できるかが勝負の分かれ目です。

① 「ハツリ深さ」の定義

設計では「平均深さ30mm」などで一括計上されがちです。しかし、実際は鉄筋裏まで腐食が進み、50mm〜100mmハツる箇所が出るはずです。

  • 図面の標準図と照らし合わせ、「鉄筋裏までハツる場合の割増単価」が計上されているか?
  • ここを見落とすと、深くハツる手間賃がタダ働きになります。 ※なお、塩分量分析の結果によっては、深さだけでなく全面ハツリへの工法変更が必要になるケースもありますが、それはまた別の話として、まずは「設計値」の確認です。

② 「施工面積」のトリック

劣化部はアメーバ状に点在しますが、実際の施工(カッター入れ)は「四角形(矩形)」で行います。

  • 設計数量(劣化部のみ)と、施工数量(整形含む)の係数は考慮されているか?
  • ここを指摘しておかないと、施工後に面積でもめることになります。

③ 「水」の始末

コンクリートが傷んでいる場所には、必ず原因である「水(漏水)」があります。

  • 断面修復だけ計上されていて、原因である「ひび割れ注入」や「導水工」が抜けていないか?
  • これを指摘し、追加施工を提案することは、**「構造物の長寿命化」という品質確保の観点から、高い評価(創意工夫・社会性)**に繋がります。

まとめ:図面を汚すことを恐れるな

「綺麗な図面」は、大切に扱っている証拠ではありません。 **「現場のリスクと真剣に向き合っていない証拠」**です。

逆に、蛍光ペンで真っ黄色になり、赤字で修正がいっぱい入った図面は、あなたがプロとして現場を掌握しようとした**「汗と思考の痕跡」です。 検査官や発注者は、完成した現場だけでなく、こうした「プロセス(図面の汚れ)」**を見て、あなたという技術者を評価しています。

さて、赤黄チェックで「設計と現場の不一致」が見つかりました。 次に行うべきは、それを正当な対価として認めてもらうための**「設計変更協議」**です。

次回は、照査の次工程である**「設計変更協議を通す技術」**について、さらに深掘りしていきます。 (断面修復工における塩分量分析による工法変更など、ダイナミックな変更事例にも触れていく予定です)

(次回配信予定) 1/12(月)


(今回のエクササイズ) 手元の図面を1枚、黄色く塗ってみよう

まずは1枚で構いません。構造一般図でも、配筋図でも。 数量計算書の数字と、図面の数字を指差し確認し、合っていたら蛍光ペンで塗りつぶしてください。 「あ、ここ寸法が抜けてる」「この数字、計算書と合わないぞ?」 塗り始めて3分で、必ず何かが見つかるはずです。その「気づき」こそが、利益の源泉です。


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