「話が通じない」若手・ベテラン監督員をどう動かす?タイプ別攻略法と「決裁」を通す技術|「工事成績評定の本質」実務支援ser.#7
前回記事では「創意工夫」のネタ発掘について考察しました。 今回は、より人間味があり(いわば泥臭い)、そして工事の進捗を最も左右する重要テーマ、「担当監督員との接し方」です。
「入庁したての若手で現場を知らない」 「ベテランだけどこだわりが強すぎる」 「民間からの転入者で、指示がズレている」
彼らとのコミュニケーションがうまくいかず、書類が止まったり、現場が混乱したりしていませんか? 当然、彼らは工事成績評定の採点にも深く関わります。 今回は、そんな「困った監督員」たちの心理を解剖し、工事をスムーズに進めるための「攻略法」を考察します。
[参考資料]
- 滋賀県HP:工事成績評定について
1. なぜ「手続き」は炎上するのか
担当監督員がどんなに不慣れでも、工事に変更がなく、現場も設計通りなら問題は起きません。 しかし、そんな工事はありません。「犬も歩けば棒に当たる」。現場では必ず変更や想定外が発生します。
多くのトラブル(炎上)のパターンはこうです。
- 変更に伴う協議や報告が、どこかで「未決裁」のまま止まる。
- その後に続く書類が雪だるま式に溜まっていく。
- いざ完成間際になって、決裁権者(課長や本庁の工務部署 等)から**「この工事は、いったい誰の承認で勝手に進めたんだ?」**と指摘される。
- 大問題に発展し、評定は当然、ガタ落ちになる。
この「決裁の停滞」を引き起こす最大の要因が、担当監督員とのコミュニケーション不全です。

2. 【タイプ別】監督員の特徴と「停滞」のメカニズム
監督員のタイプによって、書類が止まる理由は異なります。まずは相手のタイプを見極めましょう。
(1)若手職員(知識・経験不足)
- 特徴: 工事そのものも、役所の決裁ルールもよく分かっていません。しかし総じて素直です。
- 停滞理由: 受注者の書類を受け取った後、上司(係長)から修正指示を受けても、自分で直そうと抱え込んでしまいます(年上の現場代理人に指示しづらい等の心理も働きます)。
- 結果: 受注者は何がNGだったのか分からず、書類の不備がブラックボックス化して、期限ギリギリで大炎上します。
(2)中堅職員(工事畑以外からの異動)
- 特徴: 計画・調整部門などは経験済みで、役人としては優秀。行政手続きの流れは熟知しています。
- 停滞理由: 失敗を避けたい(向学心も旺盛)ため、最初は丁寧でコミュニケーションも良好です。しかし、現場特有の「臨機応変(アバウト)」な進め方を嫌う傾向にあり、特に現場志向の強い代理人との感覚のズレが元となり関係が悪化し、協力関係が崩れることがあります。
(3)ベテラン職員(工事一筋)
- 特徴: 現場を知り尽くし、会計検査も設計変更・積算実務、進行管理も熟知しています。
- 停滞理由: **「こだわり」と「保身(リスクヘッジ)」**が強烈です。過去の失敗例を知っているため、防衛本能から過剰なスペックや詳細な資料を要求しがちです。受注者への指導や指示も厳しく、現場代理人が疲弊して書類作成が追いつかなくなります。
(4)民間からの転入者・施工管理員(コンサル)
- 特徴: 建設会社等の経験があり、一見話しやすそうです。
- 停滞理由: ついつい**「施工者目線」**で指示を出してしまいます。本来の発注者業務(条件変更整理や各種内外調整実務、変更積算実務、決裁ルート等)がおろそかになり、方向違いの指示で現場が混乱するケースがあります。
3. 原因は「無知」「こだわり」「保身」
これら全てのタイプに共通する停滞の原因は、以下の心理的要因に集約されます。
- 知らない、聞けない(プライド): 若手や異動組は、分からないことを「恥ずかしくて(今さら)聞けない」。あるいは「何が分からないのかが分からない」。だから書類を机にしまい込む。
- 強すぎる「こだわり」: ベテランは多くの成功体験があるため、自分のやり方を強要し、他を受け入れない。
- 庁内の「保身」: 出世コースやパワーバランスの中で、「完璧な手続き過程や説明を期したい」「面倒な案件に関わりたくない」という心理が働き、判断を先送りする。
4. 対策:「攻略」の4ステップ
では、どう動かせばいいのか? 相手を変えることはできませんが、こちらの「接し方」で動かすことは可能です。
① 「プロ」としての自負を持つ(知識武装)
まず、大前提です。 あなたは現場代理人です。この現場に関しては、あなたこそが世界で唯一の専門家です。 若手に質問されたら、自信を持って教えてあげてください。「駆け出し」ではなく、「現場責任者」としての力強い方針を示すことで、相手は安心します。
② 相手の「不安」を取り除く(深い理解と共感)
監督員が動かないのは、**「不安(無知・失敗への恐怖)」があるからです。 相手のタイプ(得意分野・苦手分野)を分析し、「あなたの得意な土俵で説明しますよ」**という姿勢を見せましょう。 シリーズで繰り返している通り、ここでも「感情」がモノを言います。信頼関係さえ築ければ、若手は頼ってきますし、中堅も耳を傾けます。 ※この部分が前回記事のエクササイズの該当箇所となります
③ 毅然と「根拠」を示す
ベテランの過度な要求に対しては、言いなりになってはいけません。 「共通仕様書の〇〇に基づき…」と提出書類の根拠に触れ、先方が求める要求のレベルや範囲をそれとなく確認・示唆しましょう。 「それは本来、発注者側の業務ですよね?」というニュアンスを、柔らかく、しかし毅然と示すのです。これを繰り返せば、相手も無理強いはできなくなります。
④ 「組織」で対応する(パイプの複線化)
担当者が多忙で追い詰められている場合、個人の力では限界があります。 ここで**「組織対応」**を使います。 重要な協議には上長(工事長・支店長等)を同席のもと、発注者側も係長級の臨場の場をつくります。 担当者レベルで詰まっている話を、上司同士のパイプでスマートに通す。これができるのが「強い現場」です。

まとめ
今回は、担当監督員との接し方と、工事執行事務の停滞(塩漬け)を防ぐヒントを考察しました。 相手の「タイプ」と「心理」を見極め、「理解」し、「共感」により関係を構築、そしてプロとしてリードしつつ、時には組織を使って決裁を通す。
これは単なる人間関係の話ではなく、**「発注者の意思決定を支援する(=実務支援)」**という高度なマネジメントスキルです。
次回は、設計変更トラブルの未然防止策として極めて重要な**「設計図書照査」**について見ていきます。 明らかな設計不備に対し、どうやってスムーズに変更対応へ持っていくか? 今回のエクササイズは、その基本となる「赤黄チェック」です。
(今回記事の主な参考書籍:7つの習慣)
(次回配信予定) 臨時記事発行に伴い次回は12/29(月)の予定です
「発注者への対応」や「組織的な折衝対応の設計」など、Blog記事で伝えきれない個別のノウハウについては、当事務所にご相談ください。 → [当事務所の技術サービス(コンサルティング)詳細はこちら] → [お問い合わせ・ご相談はこちら]
(今回のエクササイズ) 設計照査の基本:「赤黄チェック」
次回のテーマに向けた予習です。 あなたは設計図書の照査を行う際、**「赤黄チェック」**を行っていますか? 設計図書と設計図の不整合、設計図と数量計算書の数値の突き合わせ等を行い、
- 合っているもの:黄色でチェック(塗りつぶし)
- 不整合な箇所(合わない):赤色でチェック(囲む)
- (照査で共有・解決済):青色でチェック
という、シンプルですが強力な手法です。 このやり方を知っているだけで、変更協議の「根拠」作りが劇的に楽になります。ぜひ再認識してみてください。


