書類が「塩漬け」にされる理由、「確実な決裁資料」に変える作成・提出術|「工事成績評定の本質」実務支援ser.#5
前回記事では、2つの法律(給付・技術)に基づく「検査」について考察しました。これを知って検査に臨む受注者は少ないですが、知っているだけで景色が変わります。
さて、今回は皆さんが普段接する担当監督員(&主任監督員)への「受注者提出書類」についてです。 前回のエクササイズ「なぜ書類は塩漬けになるのか?」の実態に、発注者内部の「決裁(けっさい)」の仕組みから迫ります。
1. 受注者提出書類の「量」と「根拠」
私が直近で担当した竣工検査では、キングファイルがずらーっと長机5つ分(1.8m×5=9m!)、さらに机の下にバックデータ箱1つ分という、凄まじい量でした。 工期3年という事情もありましたが(施工体制台帳だけで3冊!)、インフラ工事の書類量は「働き方改革」としてかなり縮減された今でも、膨大といっていいでしょう。
国交省の「工事関係提出書類」に記載されている種類だけでも87種類(着手前29、施工中43、完成時15)。これらはすべて、契約書・仕様書(共通・特記)を「提出根拠」として求められています。
[参考リンク]
- 国交省:工事関係書類一覧表https://www.mlit.go.jp/tec/sekisan/sekou/pdf/221201H22kouritsuka03miekesi.pdf
- 国交省:土木工事共通仕様書https://www.cbr.mlit.go.jp/architecture/kensetsugijutsu/doboku_shiyousyo/pdf/r06/shiryo_01.pdf
2. あなたの書類は、役所内でどう回るか?
受注者が提出した書類は、役所内でどのように「決裁」されていくのでしょうか? 一般的なフローは以下の通りです。
- 担当者・係長チェック: まず担当者が内容を確認し、次に係長に回ります。(ここで「細かい内容」や「書き方」の厳しいチェックが入ります)
- 課長補佐チェック: 次に課長補佐に回ります。ここでは資料の根本的な内容(提出根拠・現設計の位置づけetc)を再確認されることが多いでしょう。
- 課長(最終決裁): 最後に決裁権者である課長に回り、ハンコをもらいます。
急ぎの案件では、担当者が各決済のため書類を持ち歩き、その場で説明してハンコをもらう「持ち回り」が行われることもあります。 現在は電子決裁が主流となり、持ち回りのプレッシャーは軽減されましたが、逆に「日付の融通が利かない」という新たな厳しさも生まれています。

3. 「塩漬け」の正体は、あなたが提出した書類の不備にある
ここで、前回のエクササイズの答えです。 なぜ、書類は担当者の机で「塩漬け」になるのか?
それは、あなたが提出した書類が、係長や課長補佐のチェックに堪えられない「不備」を含んでいるからです。
担当者が最も苦痛なのは、「上司(係長・補佐)からの差し戻し」です。 あなたが不備のある書類を出すと、担当者はこう思います。
「まだ修正しきれていないな。これをこのまま回しても、補佐から質問や指摘されるだろうな(また書き直しだ)」
「でも、受注者に修正指示を出す時間はとてもない...」
この板挟みからくる「感情」と「行動」、「比較(あの代理人はダメだ)」と「時間的制約(現在進行案件優先=後回し)」こそが、「塩漬け」の正体です。 そして、決裁期限ギリギリになって、上司から「あの件どうなった?」と突っつかれ、パニックになった担当者から、あなたへ「明日朝イチで修正してください!」という、いわば「炎上」電話がかかってくるのです。
4. 「不備な文書」を「確実な決裁資料」に変える3つの実務術
では、どうすればよいか? 答えはシンプルです。担当者が「これなら係長・補佐を通せる」と自信を持って回せる、「確実な資料」を渡してあげることです。
①「細かい内容」の不備をなくす
提出資料でまず重要なことは、「何の書類か不明」なものです。以下の視点でセルフチェックしましょう。
- 提出根拠は何か?: ここが最も重要です。「共通仕様書◯条◯項に基づき提出」等に該当しなければ、それは決裁資料として提出する前の段階(相談資料)を意味します。根拠条文を書けない書類はまだ決済段階になく設計変更の提案or検討の段階なのです。
- 提出の順序は?: 2回目が出ていない(未決裁)のに、4回目を出していませんか? 決裁は積み上げです。前が完了していない資料はまわすことができません。
- 目的は何か?: その書類の内容は、「協議」なのか、「報告」なのか、それとも「承諾願」なのか? 目的によって立ち位置が変化し資料の内容説明も異なってきます。
- 前提は何か?: 設計値(基準)が入っておらず、測定値(結果)だけ並べていませんか? 「何と比較してOKなのか」が分からない資料は、ただの数字の羅列です。
②「書き方」の不備をなくす(目的と資料の体裁)
読み手(決裁者)にストレスを与えない文書を作成しましょう。以下の項目が守られていない書類は、内容以前に「見る気を失わせる」原因となります。
- 用語の定義: 「確認、報告、請求、通知、申出、質問、回答、協議、提出、提示、打合せ、了解、受理、承諾」。前述の通り これらをハッキリ意識することで書類での立ち位置が変化し、内容説明も大きく異なります。何のために出す書類なのか、目的をハッキリさせて資料を作成しましょう(※「土木設計業務等共通仕様書(案)」P1-2にわかりやすく記載されていますのでご参照ください)
- 時系列の明示: 経緯によっても立ち位置が変化し、内容説明も大きく異なります。「契約(当初)→変更発生→対応案→再協議」という、時間の流れを明確にします。
- 【重要】強調色のルール: 「赤」色は「変更箇所」のみに使用します。強調するために「赤」色を使ってはいけません。また、他の色も極力使わないようにします(黒・赤の2色が標準)。
- 大枠から詳細へ: 「提出根拠 → 表紙 → 位置図 → 全体数量 → 個別詳細」の順を意識して構成します。いきなり詳細図から見せられても決裁者は理解できません。
- 5W1Hの明示: 誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どうしたのか。これを明瞭にします。
- 体裁の統一: タイトル・見出しや文書番号、これに連動する字体(ゴシックと明朝)を使い分けます。発注者の公式文書を参考にするとよいでしょう。
- ナンバリング(ページ管理): 宛名、タイトル、日付、場所などは当然として、最も重要なのがページ番号です( 資料本体のページ下中央に記載)と、添付資料のナンバリング(ページ右肩に資料No.と囲い書き)を明確に区別しましょう。打ち合わせや会議で絶大な効果を発揮します(発注者側の慣れた文書スタイルと議題手順の明確化)。
- ナンバリング(各章): ナンバリングは各章ごとにもありますね。1、(1)、①、ⅰ)、・が基本スタイルです。足りない場合は、これにⅠ章として大きく、括ったり、1.1、1)、ア.を追加したりといった方法があります。(出展:理科系の作文技術 木下是雄著 中公新書)

③どのように提出するか?
上記の「現契約・現設計」と「確認、報告、請求、通知、申出、質問、回答、協議、提出、提示、打合せ、了解、受理、承諾」を意識すれば、自ずと見えてきます。
現契約に関することであれば、受注者提出書類に則ってだせばよいだけです。それ以外のことは、まず、「確認請求」です。
「契約や設計と現場が違うんですが、まずは確認してもらえますか?」ということです。当然、内容がどう転ぶか分かるはずもないので、まずは速報としての打ち合わせ(公式ではなく担当者レベルでの)資料として、作るのです。
もちろん、「現契約(設計)は◯◯、それをこうしようと思って◯◯していくと、◯◯です」をキチンと大枠→詳細、時系列、黒と赤、で表現するのです。
(次回予告)
今回は、受注者提出資料を考察しました。「書類の塩漬け」の実態、実務のご参考となれば幸いです。では、具体的にはどのような事例があるのか?工事成績評定、あるいは変更処理にどう影響していくのか?といった内容で書類の具体例を考察してみたいと思います。※次回は12/1(月)の予定です
実務実践の場では、Blog記事で伝えきることのできない背景文脈が当然にあります。当所では詳しい個別ケースのご相談に応じさせていただいております。
(今回のエクササイズ)
「書類の塩漬け」経験の振り返りです。そういえば・・・、というようなことに思いをはせていただければと思います。
※このBlogでは、工事成績評定の考査項目を中心に現場代理人・監理技術者の実務実践力の向上について考察していきます。
※執筆にあたり、各種の書籍と、筆者の官民38年間の公共工事監督経験(建設会社・発注者・コンサルすべて各10年以上の実務経験)を加えて執筆しています。 私の職歴等はこちらです。技術サービス詳細はこちらです。


